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インタビュー 第6回 銅版画家 重野克明さん

ご本人や家族、そして友人知人が大切に保管していく「もの」としての自伝・自分史に、何か付加価値をつけられないものか? そう考えて実現したのが、銅版画家・重野克明さんとのコラボレーションでした。「肖像画と自伝」は、いま日本でもっとも注目される銅版画家の一人である重野克明さんが、自伝の肖像画を担当します。東京・大阪を個展巡回中の重野さんにお話を伺いました。

重野克明さん

1975年千葉県生まれ。2003年、東京藝術大学大学院修士課程美術研究科版画専攻修了。2003年、第71回日本版画協会展で日本版画協会賞受賞。現在は茨城県水戸市にアトリエを構える。2016年、日本橋髙島屋(3月)、大阪髙島屋(4月)で個展を開催。2017年の銀座77gallery「床の間、展」ではほとんどの作品が完売となる盛況ぶり。

記録としての銅版画

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当初は自伝の著者の肖像を肉筆画で—という方向だったのですが、最終的には銅版画でやっていただけることになりました。
重野
私の専門は銅版画ですから、せっかくやらせていただくならやはり自分を一番表現できる手法で描きたいと思いました。
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少し甘い考え方…肉筆画ならばお手すきに描いていただくことができるかもしれない—とお声がけしたところもあるのですが、銅版画でとなると…下書き→彫り→刷りとたいへんな作業になります。
重野
そうですね。
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プロとしての矜持、こだわりを感じて、たいへん恐縮しています。重野さんが「文字も作品として描けるのが銅版画の魅力だ。記録したものが作品になる」とトークショーでおっしゃっていたのを拝聴したことが印象に残っています。
重野
肉筆でふつうに文字だけを描いてもなかなか作品にはならないけれども、銅板に刻むとそれを作品にできることがあるんですね。
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実際、重野さんの作品には文字だけが描かれたものがあります。
重野
テレビを見ながらとったメモ、記録を、作品化したものもあります。
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個展でも出品されていて拝見しました。その、重野さんがおっしゃった「記録」という部分が、自伝づくりのスピリットに合うと思ったんですね。自伝とは「記録」に他なりませんから。

選択肢がない中での作品づくり

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重野さんと初めてお会いしたときに、尊敬する作家さんというお話の中で浜口陽三美術館を教えていただいて、遅ればせながら先日行ってきました。
重野
いかがでしたか?
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さくらんぼなど果物ばかり描く方だなと思いました(笑)。すごく限定された世界観といいますか。
重野
そこがいいんですよ。
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重野さんがやはりトークショーでおっしゃっていた「選択肢がないことで作品が生まれる」という発言を思い出して、共通するところがあるなと思いました。
重野
実際、あれもこれもと選択肢がありすぎないほうがいいとは思います。特に自分の作品づくりの場においてはそうです。
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「肖像画と自伝」の表紙画は、著者様の写真3点ほどを元に肖像画を描いていただきます。ちょっと無理な注文ではあるのですが…。
重野
これもある意味「選択肢のない」状態ですよね。もちろん、本当は目の前にご本人がいらっしゃるほうがリアリティがあるのですが、不在なら不在なりの世界観を構築していけたらと思っています。
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会ったことのない人の肖像画を、描く。試みとして面白くもあるし、反対に怖いところもあります。でも、新進気鋭の版画家・重野克明さんがどういう画を描いてくるのか、楽しみです。私が描かれる側だとしたら、本当に光栄ですし、ドキドキします。

ライフワークとして

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この「肖像画と自伝」という試みが万が一、重野さんのライフワークになればいいなと思っています。
重野
なりえると思っています。そのために引き受けたんですから。
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そうすると自伝で肖像画を描いてもらった著者ご本人にとっても、宝物にますます付加価値がつく、輝きが増すことにもなるわけです。「私の自伝の表紙は重野作品だ」という感じで。
重野
そうなるといいですね。
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最後に、補足宣伝(?)しておきたいのですが、本来ならば、重野さんは簡単に肖像画を描いていただけない人です。このたびの市井の人の記録を銅版画で、という企画のためにお受けいただくことができました。
重野
純粋に興味がわいたためです。
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本当にありがとうございます。細く長く、できれば少しでも太く長く、どうぞよろしくお願いいたします。
重野
私も楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。

※「肖像画と自伝」は写真を中心に制作する自伝冊子。オールカラー16ページ、10部制作で88,000円(税別)〜。
※浜口陽三(1909-2000)は戦後日本を代表する銅版画家。妻は版画家の南桂子。東京・水天宮駅前に個人美術館「ミュゼ浜口陽三ヤマサコレクション」がある。

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